勝 猛一 (司法書士)
1.遺言能力
遺言には「遺言自由の原則」があります。
自分が死んだ後に、自分の財産を遺言によって自由に処分できます。
あるいは、財産の分配を自由に決めることもできます。これは、法定された相続の割合を変更することができるということです。
もちろん、割合でなく、株式は長男に、現金は長女に、というように特定した財産を、誰に分配するかを決めることも自由です。
財産の事だけでは有りません。
「認知」や相続人の「廃除」(相続人から除いてしまう)や「廃除の取消」といった身分についても最終的な意思表示を、遺言により実現させることもできます。
だれでも、自分の死後に自由に財産を分配する権利を持っており、その意思表示をすることを「遺言」と言います。
ただし、財産や身分についての全てが、遺言者の自由になるわけではありません。相続財産の一定部分を一定範囲の相続人に留保させる「遺留分」という制度が、あります。
遺言は、上記で書いたように、原則として誰でも作成が可能です。
ただし、次のような遺言能力がない者が作成した遺言は無効となります。
例、満15歳未満の者が作成した遺言
例、代理人(親など)による遺言書
例、成年被後見人(認知症その他、精神的な障害により判断能力が無いものの遺言)
但し、一時的に判断能力が回復して、判断力があると認められると、医師2人以上の立会いがあれば、遺言することが可能です。
もちろん、遺言が有効に成立した後に、遺言者が判断能力を失っても遺言は有効です。
被後見人との違いが、わかりにくいかもしれませんが、被保佐人や被補助人は、原則として遺言能力があります。
そのため、医師の立会などなく、単独で遺言を作成できます。
2.遺言の有効性
遺言が有効でないときとは、遺言能力がない者が、遺言を作成した場合に加え、遺言が方式を欠くときです。遺言の内容が法律上許されないときも有効ではありません。
他にも、被後見人(判断能力を失った本人)が、判断能力が回復して後見の手続きが修了する前に、後見人の利益となる遺言をすることはできません。
同じ意味で、被後見人は、後見人の配偶者もしくは後見人の直系卑属(子供や孫)の利益となる遺言をすることはできません。
簡単にいうと、後見人側が、判断能力が衰えた本人を利用して、後見人側に都合の良い遺言を書かせているかもしれないからです。
このように遺言の効力が有効であるとするためには、遺言能力があることに加え、遺言に無効事由がないことが必要です。
無効事由ではないですが、遺言に詐欺や強迫といった遺言の取消事由がある場合はどうでしょうか。この場合は、遺言が取消されると遺言の効力が失われます。
遺言の効力は、遺言者の死亡の時から効力を発します。
このことは、当たり前のように思えるのですが、遺言者によっては、遺言を作成した時から、自分の書いた内容に精神的に縛られる人がいます。
でも、心配はご不要。
遺言者はいつでも、遺言の全部または一部を撤回することができます。
また、遺言で財産分配の方法を決めても、その後に、財産の処分を行うことは自由です。
この場合、生前に処分した財産と遺言の内容が、重複する部分については、遺言を撤回したものとみなされます。
この処分した部分の遺言の効力は発生しないことになります。
停止条件が付いている場合は、その条件が整ったときに効力が発生します。
相続人の廃除という「相続人から除いてしまう」という制度があります。この廃除や廃除の取消は、家庭裁判所の審判があると、死亡の時に遡って効力が発生することになります。
3.遺言の執行者
遺言者が死亡した後は、遺言者は自分で、遺言の執行をすることはできません。そのため、遺言の執行者を定めておきましょう。
執行者は、遺言者の意思で自由に指定しておくことができます。
そのため、相続人の一人を執行者に指定する人がいます。
しかし、その場合は他の相続人から、遺言執行者が、疑いの目でみられることがあります。そうなると、裁判所に遺言執行者の解任の申立がされることがあります。
このような問題を引き起こさないために、執行者は、司法書士や弁護士などの第三者を指定しておきましょう。