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賃貸管理blog賃貸マンションの更新

今回は、家主の皆さんが、賃借人との契約期間満了を迎え、これ以上契約は更新しない場合にどうすべきかについてお話しします。

 

 

家主が、契約期間満了により借家契約の終了を希望する場合

 

まず、家主が、契約期間満了により借家契約の終了を希望する場合には、家主は賃借人に対し、期間の満了6ヶ月前までの間に更新拒絶の通知をしなければなりません。

 

また、契約期間満了後も賃借人が使用を継続した場合には、家主はこれに対し、遅滞なく異議を述べなければなりません(借地借家法26条)。

 

借家人との契約を終了する場合には、何はなくとも、この通知が必要となります。なお、通知を行う際は、内容証明郵便等で記録に残すようにするのがポイントです。

 

 

次に、これら更新拒絶の通知及び使用継続に対する異議には「正当事由」が必要となります(借地借家法28条)。

 

 

この「正当事由」とは、法律上、

 

①賃貸人及び賃借人が建物の使用を必要とする事情

②建物の賃貸借に関する従前の経過

③建物の利用の状況

④建物の現況

⑤財産上の給付を考慮してその有無を判断するもの

 

とされています。

 

これだけではピンとこないと思いますので以下に詳しく説明します。

 

①賃貸人及び賃借人が建物の使用を必要とする事情

 

賃貸人及び賃借人それぞれについて自己又は家族の居住の必要、営業の必要、建替えの必要、売却の必要

 

②建物の賃貸借に関する従前の経過 

 

賃貸借契約締結の経緯・事情、賃貸借契約の内容、賃借人の債務の履行状況、賃料の額及び改定の状況、権利金等の一時金、各種承諾料の授受の有無・程度、借家の経過期間、更新の有無・内容(合意更新か法定更新か、更新料支払の有無及びその額)、その他信頼関係破壊事実の有無等

 

 

③建物の利用の状況

 

賃借人にとって必要不可欠の利用であるのか、建物の種類や用途に則った利用がなされているか、建物の用法違反となるような使用はなされていないか等

 

 

④建物の現況

 

建物の経過年数及び残存耐用年数、建物の腐朽損傷の程度、大修繕の必要性の有無、修繕費用、当該地域における土地の標準的使用に適った建物であるか等

 

 

⑤財産上の給付を考慮してその有無を判断するもの

 

立退料、代替不動産の提供

 

 

では、これらの事情が裁判においてどのように評価され、正当事由の有無が判断されているのでしょうか。

 

 

賃借人との契約終了に際しての裁判事例

 

事案の内容としては、地方大学の教授として大学宿舎に居住していた賃貸人が、都内にある賃貸物件近くの大学へ転勤することとなり、賃貸物件の返還を受けて自ら居住する必要があるとして、賃借人に700万円の立退料を提供して解約を申し入れたというものです。

 

因みに、賃貸物件は都心部の住宅地にある木造2階建(1階2階ともに11坪程の広さ)の建物で、賃料は6万円で10年程据え置かれていました。

 

また、賃借人は、賃貸物件の2階に30年以上居住し、1階店舗部分ではワープロ教室を営んでいました。

 

この事案に対して裁判所は、

(ア)賃貸人の自己使用の必要性が大きいこと、

 

(イ)賃借人は30年以上もの長きにわたって賃貸物件に居住してきたことはたし かに無視できないが、同物件を絶対に必要とする事情までは考え難いこと、

 

(ウ)賃借人のワープロ教室は登記上の本店こそ賃貸物件に置かれているものの、実際の業務は別のところにある事務所において行われていること、

 

(エ)賃借人が転居する際の経済的負担(主に賃料の差額、敷金礼金等、引越費用)の一部を賃貸人に負担させる金額として、立退料の700万円は相当なものと認められること

 

を挙げ、賃貸人の解約申入れに「正当事由」が有ると判断しました。

 

 

このように、前回お話した正当事由の考慮要素

①建物の使用を必要とする事情

②賃貸借に関する従前の経過

③建物の利用の状況

④建物の現況

⑤財産上の給付」を当てはめてみると、賃貸人の居住の必要が賃借人の居住及び営業の必要を上回る(①)

 

とされ、また、賃借人は相当な金額の立退料を得ることができる(⑤)とされていることがわかります

(なお、立退料の相当性の判断においては、賃料が長期間にわたって低額で据え置かれていたこと(②)が考慮されていると考えられます)。

 

 

正当事由の有無について

 

賃借人との契約終了に際して必要となる「正当事由」(借地借家法28条)の有無について、実際の裁判例を挙げながらお話したいと思います。

 

 

まず、事案の内容としては、新宿に所在する3階建てビルを所有する賃貸人が、当該ビルの1階部分においてゲームセンターを営む賃借人に対し、当該ビルの老朽化が甚だしく、これを取り壊して中層ビルを建築する必要があるとして、立退料2億5000万円の提供を申し出て解約を申し入れたというものです。

 

 

この事案に対して裁判所は、

(ア)当該ビルは未だ老朽化が甚だしいとはいえないが、他方、(イ)従前の経過より賃貸人・賃借人間の信頼関係が完全に破壊されていること、

 

 

(ウ)借家権価格が2億2500万円と認められることを挙げ、賃貸人が立退料として2億2500万円を提供することにより「正当事由」は具備されると判断しました。

 

 

 

では、今までに話した正当事由の考慮要素

「①建物の使用を必要とする事情②賃貸借に関する従前の経過③建物の利用の状況④建物の現況⑤財産上の給付」を当てはめてみましょう。

 

 

本件では、多額の資金を投下してゲームセンターの経営を続ける賃借人において建物使用の必要性が相当程度認められます(①)。

 

 その関係では、(甚だしいとはいえない)建物の老朽化(④)及び賃貸人・賃借人間の信頼関係の破壊(②)は、それ自体として正当事由とはならないものと考えられます。

 

 

もっとも、賃貸人は、鑑定評価書により算出した借家権価格以上の比較的高額の立退料を申し出ており、これにより、当該ビルでのゲームセンターの経営を辞めざるを得ない賃借人に対して十分な補償がなされます。

 

 このことを併せ考えれば、本件の考慮要素全体として「正当事由」が認められると判断されたといえます。

 

まとめ

 

家主側から借家人に契約解除を申し伝えたい場合は、6ヶ月前に内容証明郵便で伝えるのがよいでしょう。

 

もし、裁判になった場合は、どちらに正当事由があるのかによって、立ち退きなどにかかる費用が変わってくるので、事前に弁護士と相談したうえで進めることをお勧めします。


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