財務省が提案した日本型軽減税率は廃案のようです。
年末に向けてこの課題を中心に議論されるようです。
経済産業省からは「役員給与の損金算入範囲の見直し」「取引相場のない株式の評価方式の見直し」など、金融庁からは「上場株式等の相続税評価の見直し」など、農林水産省からは「農地を中間管理機構に貸し付けた場合の固定資産税の免除」などそれぞれ気になる改正要望が出ています。
自民党の「家族の絆を守る特命委員会」では、遺言控除制度の導入を求める決議がされており、その内容と実現可能性が注目されます。
「遺言控除」制度を自民党が提案
(1)遺産分割事件は10年で3割増加
最高裁判所の司法統計によると、平成25年に調停や審判に至った遺産分割事件の新規受件数は15,195件で、10年前の11,556件から約31%増加しています。
平成23年の全国の死亡者数は1,253,453人ですが、司法統計による相続に関する相談件数174,494件に上っており、なんと約14%もの相続について親族間で訴訟にならないまでも家庭裁判所に相談していることになります。
(2)財産額の多寡は争いには関係ない
一方で平成25年度に認容・調停成立した遺産分割事件件数の相続財産額別の件数は次の表のようになっています。
総数8,994件のうち財産総額5,000万円以下が全体の75%を超えており、争いになるかどうかは財産の多い少ないとは関係がないことがわかります。
(3)まだまだ少ない遺言書作成
遺言書は遺言者が自ら自筆で作成した場合でも、住所、氏名、日付、印鑑等法的に必要な記載要件を満たしていれば形式上は有効ですが、死亡後に自筆証書遺言に基づいて手続きをするためには、家庭裁判所の検認を受けなければなりません。
平成25年度に家庭裁判所が検認した自筆証書遺言は16,708件だったそうです。
また、平成26年中に作成された「公正証書遺言」の件数は104,490件です。
公正証書の作成件数はここ数年大きく伸びているのですが、まだまだ少ないのが現状です。
(4)自民党が遺言控除制度の創設を提言
自民党の「家族の絆を守る特命委員会」は、9月10日に「遺言控除」の創設を盛り込んだ「家族の絆を強くする税制についての提言」をまとめました。
この制度については、政府税制調査会でも議論されており、年末の与党税制調査会で検討される可能性があります。
平成27年1月1日から、相続税の基礎控除がそれまでの「5,000万円+1,000万円×法定相続人数」から、「3,000万円+600万円×法定相続人数」に引下げられましたが、基礎控除に一定の額を上乗せできるようにしようという案です。
提言では、例えば、複数いる子のうち1人だけが親と同居して介護を続けてきた場合や、長男の妻が長男の死後も長年にわたり献身的に義父を介護してきた場合など、家族内での介護による貢献がある場合に、被相続人がこれに報いるための遺言を残すことにより、家族の貢献に見合った遺産相続が促進され、ひいては家族の絆を強めることとなるとしています。
さらに、被相続人が遺言においてその所有する建物の所有権の帰趨を明確にしておくことにより、その建物が空家になることを未然に防止する効果も期待できるとしています。
(5)遺言控除の検討課題
遺言控除は基礎控除に上乗せすることが考えられているのですが、次のような検討課題があります。
(1) 控除額をいくらにするのか
数百万円程度が考えられているようです。
仮に300万円とすれば相続税の累進税の高い部分の税率が30%であれば90万円の減税になります。
(2) すべての遺言書に適用するのか
遺言には秘密証書遺言、自筆証書遺言、公正証書遺言などがあります。
これらのすべてに適用するのか、限定するのかがあります。
また、民法上効力を生じない場合もありますので、その場合でも控除を認めるのかどうかという問題もあります。
遺言の偽造ということも考えられるため、その対応策をどうするのかという点も検討課題です。
消費税10%引上げ時に食料品に軽減税率か?
食料品に係る消費税率を通常の消費税率より低い税率にする軽減税率の導入を公明党が必死になって実現しようとしています。
自民党も安保法案実現の見返りに、これを実現するよう税制調査会の幹部を入れ替えました。
9月に財務省が提案した日本型軽減税率は、食料品を買う際に購入金額の2%相当額をポイントとして貯まるように個人番号カードをポイントカードのように利用し、これを後から金銭で還付しようという制度でした。
公明党がこれでは購入時に軽減を実感できないとして反対し、自民党からも反対案が出て現状では見向きもされていないような状況です。
しかし、本当に軽減税率を導入することがいいのでしょうか。
(1)低所得者対策というけれど富裕層優遇
公明党は、食料品購入に消費税がかかっているのは低所得者の生活を圧迫しており、消費税率が上がれば上がるほど厳しくなるので食料品については税率を低くすべきだという主張をしているようです。
食料品に係る消費税率を低くすると低所得者も高額所得者も同じく恩恵を受けますので、結果的に高額所得者優遇になることは明らかです。
公明党が言う「低所得者対策」にはならないわけです。
低所得者対策というなら、低所得者に食料品の購入に使用できる「消費税軽減商品券」を、例えば「35,000円×12カ月×(10%-8%)=8,400円」を対象者に配布すればよいでしょう。
(2)軽減税率を導入すると標準税率引き上げ時期は早まる
公明党及び自民党は昨年の衆議院選挙前に「消費税率を10%に引き上げる際に軽減税率を導入することについて合意した」として、軽減税率導入を前提として議論を進めています。
国民にすれば税率は低いほうが良いに決まっていますので、選挙対策としてはそうなるのでしょう。
しかし、どの商品やサービスに軽減税率を導入するにしても、1,000兆円を超える国の債務があることを考えると、消費税率を将来15%以上に引き上げていかざるを得ないのは明らかです。
そうすると軽減税率を導入することによって標準税率を引き上げるタイミングが早くなることは明らかなのですから、食料品に軽減税率を導入して標準税率が上がる時期が早まることを選択するのか、食料品に軽減税率を導入しないで標準税率を引き上げる時期をできるだけ先に引き伸ばすことを選択するのかを、まず国民に問うべきではないでしょうか。
確かに消費者にとって食品は、毎日のように購入しますのでその都度消費税の負担感がありますが、衣服やガソリン、電気・ガス・水道、洗剤その他の日常係る生活費のほうが金額的には大きいわけで、
できるだけ標準税率を低くした方が結果的に負担は低くなるはずです。
それより最近のようにGDPを大きくして結果的に法人税や所得税収入を大きくすることによって標準税率の引き上げ時期を先送りした方がよりいいという判断になるかもしれません。
税は国民が選挙で選んだ政治家が決めることといえばその通りかもしれませんが、「軽減税率か標準税率か」の議論が全くないまま、選挙民の耳障りのいい「食料品の軽減税率」にいきなり行くのはあまりに無責任、安易と言わざるを得ないでしょう。
(3)軽減税率導入でEUは大きな混乱を招いている
消費税の仕組みのことを付加価値税といいますが、EUでは長い歴史があります。
そのEUでは消費税に非課税規定や軽減税率を導入したため、多くの業界団体から陳情合戦が起き、大変複雑な制度になってしまい、徴税コストと納税コストが高くなりすぎています。
日本でもすでに各社が、新聞や書籍で軽減税率導入運動をこぞって主張しています。
また、高価な容器に入った食品を開発して軽減税率を本来は受けることができない容器に適用するなどの節税商品開発競争も起こっています。
なによりもインボイスという税額票がなければ事業者は納税を適正にできないのですが、これを悪用して偽の税額票を売買する犯罪まで起きています。
今のところの議論では、インボイスを導入しない簡易方式でスタートし、その後に本格的なインボイスを導入するとしていますが、可能な限り単一税率でいくことが消費者にとっても事業者にとっても国にとってもよいことは明らかでしょう。
低所得者対策は「消費税軽減商品券」を配布することで、できるだけ長く単一税率で据え置くべきではないでしょうか。
(1) 非課税だけでもすでに多くの税務争訟が生じており、
上記の様に標準税率であるところを軽減税率適用可能とするような商品開発競争を呼ぶ可能性は、きわめて高い。
(2) 今のところ新聞が代表であるが、
今後EU各国と同じように各業界からの政治要求が頻発する恐れが強い。