「相続税は安くしたい。」率直な意見ではないでしょうか。財産をお持ちなら「なぜ相続税を払わなければいけないのか。」と思ったことがある方もいるかもしれません。
築き上げた財産です。親は子に残したく、子は受け取りたいと考えるでしょう。
しかし一方で財産を譲り受ける子というのは、世間一般から見ると棚から牡丹餅のような感覚があるのです。ここに相続が3回続くと財産がなくなるといわれている理由があります。
財産を持てば持つほど相続税に消えていきます。もちろん税金を支払うのは国民の義務のひとつではあるけれど、きちんと払うことを前提に、もしも少しでも安くすることができるのならその方法を探ってみたいですね。
どれだけ子に残せるか?
そもそも相続税は「富の再分配」が基本となり、所得税の補完機能、富の集中排除機能を担っています。
財産の中でも不動産は不動産評価として決められており※、相続税の申告書はこれに基づき税理士が作成します。
これは税理士の監督庁である国税庁が決めているものなので税理士は従わなければいけません。どの税理士にお願いしても同じ評価になります。
税理士は税金のプロでありますが、相続のプロではありません。相続税の申告はしますが対策をしてくれるわけではないということです。
相続税はもはや昔と比べても課税割合は増加し、平成27年の相続税改正によっては倍に増加しています。どんどん残せるものは少なくなってきているのが現状です。
※不動産評価によると宅地の評価は、
①路線価方式→市街地的形態を形成する地域にある
②倍率方式→路線価方式以外の宅地
この評価、不服です!!こんなときのスペシャルな方法
不動産の評価の原則は路線評価ですが、高いと思う評価があることは確かです。
たとえば前面道路で2mくらい土地が下がってしまっていたり、法地が続いていたりと有効活用できない土地だとしたら、それは30%や40%の減価ではなく、むしろゼロにしてほしいくらいと思うでしょう。
そういったときのスペシャルな方法が不動産鑑定士に(こっそり?) 鑑定してもらうことなのです。
簡単に言うと、不動産の評価は、路線価評価でなくても不動産鑑定評価による価格でもかまわないのです。確かにこれは明確に良いこととはされていません。しかし不動産鑑定士が鑑定したものを、税務署が路線価評価よりも安い土地と認めたら、その金額で相続税を納めても良いことになっているのです。
不動産鑑定評価とは?
不動産の鑑定評価とは、不動産鑑定士がその対象である不動産の経済価値を現在の社会経済情勢の下で合理的と考える市場での市場価値(予測的に)を的確に把握する作業のことです。
この不動産鑑定士が鑑定する評価は、税理士のようにきっちりと決められていません。「ここは何点で、この評価にします。」や「三角地、これは-10です。」、「角地は+5にしましょう。」など不動産鑑定士が見て、自由に決めることができます。(もちろん様々な要因を考慮します。)
要するに不動産鑑定評価とは、不動産の価格に関する専門家である不動産鑑定士の判断であり、意見ということです。
ちょっと一息:空き家を放置していませんか?
最近空き家が問題になっています。住む人がいなくなり、そのまま放置された家が増えている問題です。
そのため市町村は力を入れて調査しています。もし空き家を保有しているならある日突然連絡があり、利用状況や今後などについて聞かれることがあります。
特定空き家に認定されてしまっては様々な税の優遇が受けられなかったり、相続税もかかってきたりと大変なので、もしほったらかしになっている空き家があるなら気を付けてくださいね。
相続税の節税は不動産しかない!
相続税を節税する方法は、評価を下げるか財産を減らすしかありません。
相続財産の金額の構成比割合というのがあり、項目は①土地 ②家屋 ③有価証券 ④現金・預貯金 ⑤その他 となっています。
昔は①と②が占める割合が多かったのですが、不動産以外の財産を所有する方が増え、③④⑤についても課税対象となりました。
これらの項目の中で③④⑤は金額が固定されています。現金1億円は誰が見ても1億円であり、有価証券は所有者が亡くなれば金額は変えることができません。
しかし不動産は変えることができます。これには少し語弊があるかもしれませんが、不動産はあくまでも評価なので、見方によっては下がる可能性があります。ここで不動産鑑定評価というのが有効になります。
相続税は累進課税なので、課税対象金額を減らすことによる節税は効果があります。
たとえば、相続の課税合計が2億58000万円で被相続が妻と子2人の場合、基礎控除などを差し引くと相続税は4250万円となります。もし課税対象金額を-1000万円の2億4800円に減額できたら、3900万円になります。差額350万円、非常に大きいと思います。
簡単に言えば不動産鑑定評価の鑑定書を取るだけで減額されていくしくみということになるでしょうか。
もちろん税理士さんと相談の上で進めていく必要はあります。
不動産評価を下げる条件は?
不動産評価を下げるには相応の条件が必要です。
①宅地利用が困難なとき
路線価評価は宅地を前提としているため、宅地として成り立たないのに宅地の評価はおかしいということから、以下の理由は路線価評価に対象外となります。
・無道路地、間口が2m未満の袋地→
・三角地等の極端な不整形地
・狭小地
・帯状地
・法地(傾斜他)
②土地の利用が制限されているとき
路線価は画一的な大量、一括評価を前提としているため、通常想定される利用を制限されている土地は減価できると考えます。どのように制限されているのか実際に足を運んでみなければ分からないこともあります。
・道路との3~5mの高低差のある土地
→航空写真からは判断できないのが高低差です。現地に行かないとわからないことがほとんどです。よくあるのは擁壁がこっそり残っていることです。擁壁とは隣り合った土地間での高低差をなくすために土留めされた壁のようなものです。
・前面道路が建築基準法上の道路に該当しない土地
・私道として利用されている土地
・借地権や底地
これらは鑑定書を取ると割と簡単に減価がされると考えて良いと思います。
③売却困難な土地
路線価は地価公示水準の0.8を目途としていますが、これは完成宅地を前提としているためエンドユーザー(実際に宅地として利用する人)が購入しない土地は業者価格となります。
・造成費や開発費のかかる広大地等
・市街化調整区域内の雑種地
・空室が多いが取壊費用が多大で取り壊せない賃貸マンション
→不動産鑑定士は空室があると減価することを考えます。たとえば10%の空室があれば売上げが10%減るという見解だからです。相続税の路線価では空室は利用とみなされます。空室が多いマンションには鑑定書を取った方が適正な相続税評価を得られ納得しやすいと思います。
・買い手のない管理費の高い別荘地
・土壌汚染や地下埋没物、発掘頻度の高い埋蔵文化財包蔵地内の土地
→こちらは財産を減らすことにもつながります。マンションを売却するときに調査をしてきれいにしてからから売りに出しますが、地域によっては土壌汚染の測量や浄化など様々な費用がかかります。相続のあとに売りに出すなら、あらかじめできることは費用をかけてやっておくと財産を減らすことにも繋がります。また被相続人が相続しやすいように分けておくことも被相続人の争いを防ぐことにもなります。
不動産鑑定評価が役立つのはこんなとき!
・相続における大賞金や遺留分減殺請求の場合の価格等
・離婚時の財産分与
・遺言書作成時等の相続財産の見積もり、分割案のアドバイス
・自社株(不動産保有会社)の査定
・関連会社間、親子間の不動産売買
・不動産証券化、信託財産の査定
相続に関する相談は争いを誘発するのではとハラハラする案件もあるそうです。相談する側も様々な角度から見て、穏便に解決できるように配慮したいですね。
よくある不動産評価
よくある相談の例を見てみましょう。
①建物評価・・・不動産評価は土地だけではなく、建物評価も含まれます。
オーナーの財産を減らし相続税を減額するのが目的なら、持っている土地と建物(年間1千万円の家賃収入がある賃貸マンション)のうち建物だけ法人に売却する方法があります。そうなるとオーナーは底地を所有することになり、地代をもらいます。亡くなるまでを5年間とすると50000万の賃料収入が会社に移っていることになります。オーナーは通常の地代だけをもらうので、現金の増加を防ぐことになり、オーナーの所得税から法人税へと変換される子供たちには役員報酬として支払うことができます。この底地は無償返還の届出を出しているので、借地権は発生しないという前提なので、土地評価金額は土地評価の80%になります。
このようにメリットはいくつかありますが、直接のメリットは資金の少ない法人の建物購入費を抑えられることです。なぜかというと、建物評価は固定資産税の評価で売買されることが多いからです。よって鑑定書をつけることで購入資金を低く抑えることができるということです。
②建物は固定資産税で評価
相続税の土地は路線価評価、建物は固定資産税評価となります。
建物の固定資産税の評価は、
建物の評価額:再建築評価点数×経年減点補正率×評点1点あたりの価額
となります。固定資産税は高いと言われていますが、なぜ高いのかというと経年減点補正率が20%残っているからです。木造建物であれば37年以上経ったら20%です。たとえば今建てるといくらになるかという予測しても、20%の価格が残っているということになります。
固定資産税は相続税と違って毎年かかるものです。鑑定書をつけて建物の価値をできるだけ低くするということは良い方法です。
③建物の価格を上げる
土地の売買のとき、価格は決まっていますが内訳を変える方法があります。消費税は上がりますが、建物価格の内訳を上げます。そうすると毎年減価償却費として計上できます。
④広大地評価(更生の請求は5年可能)
バブルの頃にマンションが乱立しましたが、空室だらけということは多く、まるで残骸だらけのような場所もあります。4階建てのハイツが建っている場所も広大地と認められたケースもあります。マンションやハイツが建っているからと言ってあきらめずに考えてみても良いかもしれません。
毎年ある税制・民法改正に備えましょう。
ほぼ毎年税制や民法は改正されます。その都度知識を得るのは大変ですが、その時々に合った方法で相続税対策をすることが大切です。
・非上場株式等の贈与税、相続税の納税猶予制度の創設
→非常に有効な方法ではないかと思います。適用するなら株の評価をしなければいけません。事業をされている方は割と自社株の不動産が占める割合は高い傾向があります。
その金額を示して納税費用を出しますが、その評価を下げておくと、あとあと便利ということで今注目されています。
・摘出子と非摘出の相続分を平等にする
・配偶者居住権
まとめ
相続税を抑えるための方法はたくさんありますが、すべての方に同じように適用されるわけではありません。
税理士は税金のプロですが、相続税対策を練ることは専門外です。
実際に相続税案件にかかわる税理士が少ないという現状もあります。大切なのは自分の財産を把握し、知識を蓄え、様々な可能性を探り、担当税理士に提案することです。
資産の評価を下げることのできる不動産においては、唯一の国家資格である不動産鑑定士に依頼し、財産の価値をしっかり査定してもらうことです。
税務署に提出する書類で不動産鑑定士が作成した鑑定書には高い信頼性があります。自分の財産の真の価値を知り、それに見合った相続税を納め、大切な人たちに残していきたいものですね。